人材の定着という課題は全ての企業が直面するテーマとなっています。たとえ優秀な人材や新鮮な若手を採用したとしてもそれらの人材が企業に長く留まってくれなければその企業の成長や進化にはつながりません。
そのような課題への解決策として重要なのが人材の定着を支える取り組みである「リテンションマネジメント」です。この取り組みは企業が社員の流出を最小限に抑えその結果として定着率を高めることを目指すものです。
経営者や採用の責任者や人事部門のメンバーを対象に、リテンションマネジメントの大切さとその具体的な手法について説明していきます。人材の定着を促進するための戦略を見つけるための一助となれば幸いです。
もくじ
- リテンションマネジメントで人材流出を止める
1. リテンションマネジメントについて
2. リテンション対策の大切さ - 離職率の高い原因を明らかにする
1. 離職理由は参考にならない理由
2. 一般的な退職理由から検討する
3. 定着している社員からの聞き取りを行う - リテンションマネジメントに取り組む
1. 一般的なリテンション施策について
2. 離職の原因となったリテンション施策を導入する
- まとめ
リテンションマネジメントで人材流出を止める
転職を選択することが一般的になった現代社会において人材の定着という課題に事業規模の大小を問わずあらゆる企業が直面しています。
才能ある人材の流出は企業のパフォーマンスに対し直接的な影響を及ぼしさらには現在所属する従業員の士気にも悪影響があります。
また失われた優秀な人材の穴埋めとして新たな採用を行うことはコストもコストもかかり企業にとって大きな打撃となり得ます。
このような状況を回避するために注目されているのが「リテンションマネジメント(Retention Management)」という、優秀な人材を定着し続けるための戦略です。
まずは、リテンションマネージメントの概要と重要性について確認していきます。
1. リテンションマネジメントについて
まず、リテンションマネジメントとは何でしょうか?「リテンション」は英語で「保持」や「維持」といった意味を持つ言葉です。この言葉は、さまざまなビジネス領域で活用されています。
例えば、マーケティング分野では、顧客との関係を維持し、長期的なビジネスを確保するための施策として、「リテンションマーケティング」が存在します。
人事管理の領域では、「リテンションマネジメント」が重要な役割を果たしています。これは、企業と従業員が互いに満足する関係を維持し、優秀な人材を会社に留めるための一連の施策を指すものです。
リテンションマネジメントの方策は色々とありますが、主にはワークライフバランスの実現や待遇の改善、さらには福利厚生の充実などが含まれます。これらの施策はすべて、従業員が働きやすい環境を作り従業員自身の満足度を高めることを目指しています。
リテンションマネジメントは企業が優秀な人材を確保し続けるために欠かせない取り組みであり、その施策は従業員の満足度向上を通じて企業全体の成長を促進するものです。
2. リテンション対策の大切さ
現代の労働環境では働き方の多様性が広く認められられるようになり、働く人たちが以前より簡単に転職を選ぶことができるようになりました。このことはリテンションマネジメントが導入される背景となっています。
総務省のデータによれば、2021年には転職希望者数が889万人に達し、転職者数は約290万人になりました。新型コロナウイルスの影響で転職者数自体は減少しましたが、転職希望者数は過去最高を記録しました。これは、転職に対する抵抗感が減っているという事実を示しています。
しかし、高い離職率を抱える企業にとっては、優秀な人材の流出リスクが増大します。人材が退職するということは、その教育に投じたコストが無意味になるということです。特に、企業規模が小さい場合、人材の流出は企業にとって深刻な問題となる可能性があります。そのため、中小企業にとっては、人材の定着率を向上させることが急務となっています。
離職率や定着率が高いか低いかを判断するには、厚生労働省が発表する「雇用動向調査」が有用な参考資料となります。2021年度のデータによれば、全産業の離職率は13.9%、定着率は86.1%でした。
これらの数値を基に、自社の離職率や定着率を計算することが可能です。離職率は離職者数を在職者数で割り、100を乗じることで求めることができます。定着率は、入社人数から離職人数を引き、その結果を入社人数で割り、100を乗じることで求めることができます。
例えば、ある年度の4月に20名が入社し、そのうち6名が3年後の4月までに退職した場合、離職率は30%(6÷20×100=30%)、定着率は70%((20-6)÷20×100=70%)となります。このケースでは、入社後3年で離職率が30%ということは、平均値の2倍以上であるため、迅速な対策が必要という判断ができます。
全社員に対する離職率を計算する場合も、在職者数の数字を自社の全社員数に置き換えれば算出が可能です。自社の実態を把握することで、効果的な対策を立てやすくなります。そのため、上記の計算式を用いて自社の離職率と定着率を算出することを強く推奨します。
そして、リテンションマネジメントの導入により、人材の流出を防止し、経営方針や理念を理解し実行する従業員を増やすことが可能となります。これは、企業の活気を高め、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
離職率の高い原因を明らかにする
企業の中には離職率が高くその解決が急務となっているところが多く存在します。その解決のためにはリテンション施策つまり社員が会社に長く留まるための取り組みが重要となります。その施策を有効に機能させるためには、まずは離職率が高い原因を理解しその原因を明らかにすることが必要不可欠となります。
ここでは、離職率が高いという問題の根源を見つけ出す方法について解説します。それを理解することで企業はより効果的なリテンション施策を計画し実行することができるでしょう。
1. 離職理由は参考にならない理由
従業員が退職する際の理由は必ずしも企業側に真実として伝えられるものではないというのが現実です。
これは従業員自身が本当の退職理由を隠している場合が多く、企業が過去の退職者の理由をもとに有効な人材確保策を計画することが難しいことを意味します。
企業が新たな人材を中途採用する場合に面接で前職の退職理由を尋ねることが一般的です。しかしここでも応募者が真実を伝えるとは限らず、多くの場合は表面的な理由を言うことが多いです。そのためこれらの情報を基に人材選定を行うのは難易度が高いと言えます。このことを踏まえ、企業側としては、個々の退職理由よりも、従業員の満足度や職場環境の改善に注力する方が、長期的な人材確保には効果的と考えられます。
2. 一般的な退職理由から検討する
では従業員がどのような理由で職を離れるのか、その本音を把握することは、人事戦略の重要な一部です。そのための手掛かりとして、8,000人以上の勤労者を対象に行われた転職サイトのアンケート調査「退職のきっかけ」があります。
その調査では、一般的な退職理由として「給料が低い」という回答が最も多く、その次に「やりがいや達成感を感じられない」「企業の将来性に疑念を抱いた」が続いています。
仕事のやりがいは、個々人の価値観や感覚に依存するため、一概に比較することは難しいですが、求人情報の見直しにより、応募者とのミスマッチを防ぐことで、離職率を下げる可能性があります。
また、給与については、他社との比較が容易であるため、見直しを行うことは困難ではありません。もし見直しの結果、改善の余地があると判断した場合は、早急に従業員の定着を促すためのリテンションマネジメントに取り組むことを強くおすすめします。
3. 定着している社員からの聞き取りを行う
スタッフが会社を去る原因を探るために、長期間勤務している社員から働き方についての満足度に関するアンケートを用いて調査を行うのは非常に効果的な方法です。
アンケートを行うことで、企業側が予想していなかった様々な不満点が明らかになることがあります。これらは一見すると小さな問題に見えるかもしれませんがそれらが積み重なることで離職につながる可能性があります。
現場の生の声から従業員が何に不満を感じているのかを具体的に把握することができれば、離職率を下げるためのリテンションマネジメントを進める上でで重要な一歩となります。
自社の課題が明確になるとそれに対する具体的な対策を考え実行するための道筋が見えてきます。
従業員の意見を上手に取り入れ改善に取り組むことができる企業ほど、人材の流失を防ぐ可能性は高まります。
リテンションマネジメントに取り組む
エンゲージメントを高め優秀な人材を組織内に留めるための戦略、それがリテンションマネジメントです。これを具体的にどのように進めていけば良いのか、その手法や方向性に頭を悩ませている方も少なくないでしょう。
そこで今回は、リテンションマネジメントの取り組みを成功させるための具体的な手法を説明します。これらの方法を活用し、組織の持続的な成長と人材の定着を実現しましょう。
1. 一般的なリテンション施策について
リテンション施策、つまり社員の定着を促す戦略は数多く存在します。社内コミュニケーションの強化は効果が見込めると同時に導入が容易な対策として挙げられます。
人材が企業に定着しない状況は、コミュニケーションの問題が原因である可能性が高いため、ここに焦点を当てると有効な成果が出やすいでしょう。
具体的な対策としては、以下のようなものが考えられます。
1. 従業員の情報を積極的に共有する
社内で専用のブログやSNSを立ち上げ、社員の仕事や人柄・ビジョンなどを発信することで社内コミュニケーションが活性化できます。これにより、これまで影が薄かった社員が注目を集め成績向上に繋がるケースもあります。
2. フリーアドレス制の導入
自由に席を選べるフリーアドレス制は、他部署の社員との交流を促進し社内コミュニケーションを活発にする手段の一つです。空席の削減によるスペース効率の向上や打ち合わせの容易化による業務効率のアップも期待できます。
3. メンター制度の導入
先輩社員が新入社員や若手社員をサポートするメンター制度は上司と部下の間柄を超えたフレンドリーな関係を築きやすいためコミュニケーションが活発になりやすいです。学ぶ側だけでなく教える側も成長する機会を得られるのが大きな利点です。
これらの対策によりコミュニケーションが活性化し、社員の満足度が高まることで人材の定着率が向上する可能性があります。
さらに、評価制度や勤務体系の見直しもリテンション対策として有効です。
1. 低評価の社員をサポートする制度の導入
一般的にはランキング方式で評価されることが多いですが、低評価の社員に対するサポートが不十分な企業も少なくありません。低評価が離職の原因となることもあるため低評価の社員を引き上げるための制度を検討することが重要です。
2. フレックスタイム制の導入
出退社の時間を自由に設定できるフレックスタイム制は、多様な働き方に対応する手段として有効です。管理コストが増えるデメリットもありますが社員満足度の向上に寄与することは確かです。
3. リモートワーク制の導入
新型コロナウイルスの影響を受けてリモートワークの導入を検討する企業が増えています。通勤時間の削減やストレスの軽減など、社員にとってはメリットが多い働き方です。ただ社員間のコミュニケーションが希薄になる問題もあるため、ビデオチャットなど、視覚的にコミュニケーションを取る手段も併用することを推奨します。
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2. 離職の原因となったリテンション施策を導入する
先に紹介した通り、離職の主な原因は給与の少なさや仕事へのやりがいの欠如といった点が挙げられます。これらを改善するためのリテンション(定着)施策が必要です。
1つ目の施策:給与体系の見直し
給与体系を見直すというリテンション施策は、一見すると少々冷淡に見えるかもしれません。しかし、実際には、これが従業員の定着に大いに役に立ちます。
東京商工リサーチが行った調査によれば、給与を引き上げた企業では、従業員のモチベーションが向上し、離職率が下がるという明らかな効果が確認されています。特に、資本金1億円未満の企業ではこの効果が顕著で、中小企業における人材定着の一つの解答となる可能性があります。
2つ目の施策:成長機会の提供
給与以外で従業員のやりがいを増進させるためには、成長のチャンスを提供することが有効です。
成果を上げても昇進の道がない企業では、人材の定着は難しいでしょう。しかし、充実した研修制度を通じてキャリアアップの道筋を示すことで、従業員の満足度を高めることができます。
例えば、キャリアアップに必要な研修やセミナーを全員が受けられるように制度化したり、社外のセミナー参加費を企業が補助するなどの制度を導入すれば、従業員の満足度は自然と高まるでしょう。
また、こうした研修を通じて新たなスキルを習得することで、従業員自身の業務範囲が拡大すると同時に、自身のモチベーションの向上にもつながります。
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まとめ
もしもあなたの会社で人材が定着せず、高い離職率が続いているとしたら、それは企業内部に改善の余地がたくさんあることを示しています。
適切なリテンションマネジメント、つまり従業員の定着を図る管理手法を採用することで、離職率は改善し、結果として企業の更なる発展が期待できるでしょう。
しかし、人材育成は長期間にわたる視点が必要なものであり、短期間での効果を期待することは難しいです。
そのため、人材を長く会社に留まらせるための視点から、従業員の育成に取り組むと同時に、新たな優秀な人材の採用も視野に入れる必要があります。
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