人事部門の仕事は、直接的に売上や生産量といった成果が見えにくいため、課題を捉えるのが難しいという特徴があります。
しかしながら、人事部門は企業の生命線とも言える人材の採用から育成、そして定着させるという重要な役割を担っています。これらの一連の業務は企業の経営戦略を実行し、成果を上げるためには欠かせないものです。
最近では、「働き方改革」の推進や人事評価制度の導入により、従業員の働きやすさや満足度が向上し、それに伴い人材の定着率が高まることが期待されています。これにより、人事部門の役割がより一層注目され、その重要性が再認識される機会が増えてきました。
では、企業が社員が長く働ける環境を整備しその能力を最大限に引き出すためには、人事部はどのような課題と向き合い、どのような取り組みを進めるべきでしょうか?
目次
- 人事部が直面している課題の種類
・人材採用・人材育成
・新卒採用の強化
・中途人材の確保
・高齢者と障害者雇用の取り組み
・定着率の向上(リテンションマネジメント)について
・社員のマルチスキル化について
・次世代に向けたリーダー職の育成
・人事評価制度について
・評価制度の整備
・フィードバックを含む適切な評価体制の確立と運用
・労働環境の整備と改善
・労働時間の管理
・ハラスメント対策
- まとめ
人事部が直面している課題の種類
人事部の問題を解消するためには、経済情勢の変化や法律の改正に最新の動向をつかみながら、企業の経営方針とバランスを保つことが重要です。
具体的に、「新卒・中途採用」、「人材育成」、「労働環境の整備」の3つが主な課題として挙げられます。これらの課題を洗い出し、それぞれに対する解決の筋道を立てていきましょう。
近年では、人事部が直面する問題が人事評価制度を通じて明らかになる場合もあります。これは、評価制度が企業の人事政策をもとに作られているからです。
このような課題を効果的に解決するためには、社員の意見を吸い上げ、それを人事制度に反映することも大切です。これにより、更なる組織の成長と社員の満足度向上を図ることができます。
人材採用・人材育成
人材採用のミスマッチを防止することは、企業の生産効率を上げるために避けては通れません。
全国の約81.9%の企業が、今いる従業員の能力をもう1段アップさせ、労働生産性を向上させる」ことを人材育成の主要な目標と位置づけています(出典:厚生労働省「平成30年版労働経済白書」135ページ)。
経営陣や管理職が高齢化している企業においては、次世代のリーダーを育て上げることが企業の存続にとって重大な課題となっています。
子育てや介護を両立しながら働く人々や障害を持つ人々、更に高齢者の雇用に取り組むなど、多様な働き方に対応した施策も求められています。
これら全ては、企業が人材に関する課題を深く理解し、それに対する解決策を見つけるために必要なステップです。このテーマについて更に掘り下げてみましょう。
新卒採用の強化
多くの企業が、合同企業説明会やインターンシップを通じて、優秀な学生を早期に採用するという取り組みに力を注いでいました。これは企業にとって、新たな才能を発掘し、事業成長に貢献する人材を確保する大切な方法となっています。
しかしながら、2020年に新型コロナウイルスの影響は、これらの採用活動にも大きな変化をもたらしました。日本経済団体連合会の調査によると、経済団体連合会の会員企業のほぼ9割が、オンラインでの企業説明会や面接を行うという新しい形式に切り替えています。
このオンライン化により、地元から離れた地域の学生も企業への応募が可能となり、より多様な人材の採用の機会が生まれています。しかしこの一方で、学生が企業の理念やビジョンを理解・共感して応募するための動機づけが十分に働くかどうかという新たな課題も浮かび上がってきています。
そのため、企業は新卒学生に対するアピールをより具体的にし、自社が何を求めているのかを明確に伝えることで、学生の応募意欲を高める必要があると言えるでしょう。
中途人材の確保
事業運営にあいて、人材確保は最重要な課題の一つです。特に中途採用では、欠員の補充、部署の人員体制の増強、育児や介護休業のための代理要員の確保、さらには繁忙期のパートやアルバイトの募集など、対応すべき業務が広範囲にわたっています。
人手不足は、従業員の過度の残業時間といった様々な問題を引き起こすため、中途採用の業務では素早い対応が必要です。
いずれの状況においても、経験豊富な人材を採用することで、企業が必要とするスキルや専門知識を得られ、これにより業務の効率化が図られ、さらには職場の雰囲気を向上させることも期待できます。
ただし、採用ミスマッチによる早期退職は問題となります。そのため、求める人材の能力や資質をそれぞれの採用ごとに明確にし、それをもとに選考を進めることが必要です。
高齢者と障害者雇用の取り組み
少子高齢化社会を迎え労働力人口が減少している現状において、企業は新たな労働力として高齢者や障害者の雇用に注目しています。また2021年4月からは、高齢者雇用安定法の改正により、70歳まで働ける職場環境を整備することが企業に期待されるようになっています。
障害者の雇用についても、「障害者雇用率制度」により、民間企業には2.2%の法定雇用率が設けられており、企業全体の労働者数(単発アルバイトを除く)に応じて、一定の数の障害者を雇用する義務があります。。
これらの高齢者・障害者の雇用状況については、年に一度の報告が義務付けられています。そのため、多様な働き方を実現する視点からも、企業側から積極的にこれらの雇用に取り組むことが求められています。
定着率の向上(リテンションマネジメント)について
退職者を最小限にとどめることは、その結果として会社の技術やノウハウが外部に流出の防止につながります。それだけでなく、採用コストを削減にもつながります。したがって、社員の定着率を上げ、退職者を最小限に抑えることは、経済的な利益だけでなく会社の技術・ノウハウの保全にも役に立ちます。
しかし、社員の中には、より良い条件を求めて転職を考える人々や、退職代行サービスを利用して突然会社を去る人々が存在します。
2019年度に、中途社員の中で退職した人々の主な理由は、「労働条件」「人間関係」「給与条件」であることが厚生労働省の「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」によって発表されており、これらの要素が退職を決定づける大きな要因となっています。
退職を防ぐためには、適切な労務管理と人事評価が必要不可欠です。また、それ以外にも職場内でのコミュニケーションを活性化させることも、社員の満足度を高めて定着率を上げる重要なポイントとなっています。
※あわせて読みたい
・人材が定着しない原因は?社員の流出を減らして定着率を高めるリテンションマネジメント
社員のマルチスキル化について
昔から製造業の現場では「多能工化」といい一人の工員が複数の工程を担当できるよう求められてきました。同じように現在、オフィスワークの世界でも、社員のマルチスキル化、つまり一人の従業員が多彩なスキルを持つことが求められています。
背景としては年次有給休暇の取得を義務化したり残業時間を規制したりするなど、企業が社員の働き方改革を進めていることが大きく影響しています。一部の従業員だけに仕事の負荷が偏らないように、業務を均等に分担する必要性が生じているのです。
マルチスキル化の推進は、一つの業務を複数の社員が担当できるようになります。これによって、社員一人ひとりの能力を最大限に活用するとともに、ワークライフバランスの改善を可能にします。
さらに、社員が多様な業務を担当することで、チーム全体の協調性が向上し、業務の質も均一化するというメリットがあります。
そして最も大切なことは、社員自身が新たなスキルを身につけることで、自己成長を達成し、仕事の幅を広げること(会社によっては人事配置の柔軟化)がのきっかけとなることです。これは企業にとっても、人事配置の柔軟性を高める大きな機会となります。
次世代に向けたリーダー職の育成
後継者不足の問題は、企業が廃業に追い込まれたり、他社とのM&Aを余儀なくされたりする原因となります。
部署レベルで見た場合でも、同じ人物が長期間リーダーを務めることにより、部門内での考えの硬直化や従業員のモチベーション低下といった悪影響が生じる可能性があります。
そのため、将来的に部署のリーダーや会社の幹部として活躍する可能性を持っていることをそれぞれの従業員に示すことが大切です。
その上で企業のビジョンを浸透させ、実行力や分析力などを伸ばす教育を継続的に行うことで、リーダーシップの基礎作りへとをつなげていくことが大切です。
一般従業員とは異なるアプローチで人材を育成する「サクセッションプラン」を導入することも、次世代のリーダー育成に向けた一つの有効な戦略となります。組織全体を見渡し、長期的な視点で人材育成に取り組むことが、企業の持続的な成長のポイントとなります。
人事評価制度について
人事評価制度には大きなメリットがあります。それは、上司と部下が一緒になって仕事の進行状況や目標達成度を確認し、それを次のステップアップや昇進や成長につなげられることです。
しかしながら、評価制度の導入方法がわからない、または制度構築や運用のコスト面から評価制度を導入していない企業も多くあります。これは企業の成長と従業員のモチベーション向上の観点から大きな課題です。
企業の離職率を下げ、生産性を上げることを支援する厚生労働省の「人材確保等支援助成金」を利用すれば、費用の問題を解決し、人事評価制度を導入することができるようになるので活用の検討をしてみても良いかもしれません。
人事評価制度を整備し効果的に運用するためには、いくつかの課題を解決する必要があります。次に特に重要な2つの課題を紹介します。
評価制度の整備
同一労働同一賃金制度の導入により、企業の評価制度に対する透明性と公平性がますます求められるようになりました。
これは、パートタイムや有期契約の労働者からの要望があれば、企業は正社員との待遇差について説明する義務があるためです。企業にとっては、この説明義務は、評価制度が適切に設計され運用されていることを示すための重要なポイントとなります。
また正社員にとっても、自らの業績や目標達成に向けた努力が給与やボーナスに反映されているかどうかは、大きな関心事となります。彼らの仕事へのモチベーションを高め、待遇に対する不満が原因となる退職を防ぐためにも、社員の一人ひとりの努力と成果を定期的に評価することが大切です。
そのために、人事評価システムの導入が効果的です。このシステムは、社員の能力や成果を公平かつ客観的に評価し、それに応じた報酬を提供するための手段となります。これにより、社員は自分の努力が適切に評価されていると感じ、モチベーションを保つことができます。
フィードバックを含む適切な評価体制の確立と運用
人事評価の制度が完璧に構築されていても、評価結果が適切に従業員にフィードバックされなければ、その制度自体が従業員の成長を促す役割を果たすことにはつながりません。
評価を行う人によって基準が変わってしまう(寛大すぎる、または厳しすぎる)と、評価制度自体が公平性を欠いてしまい、それが結果として従業員の業務への意欲やモチベーションを下げてしまう可能性があります。
評価を行い、その結果を適切にフィードバックし、それを繰り返すことで、従業員の成長を促進するというのが人事評価の目的であるべきです。そのために、評価制度が適正に運用されているかを確認するのは人事部の重要な役割となります。
人事評価の基準を統一し、それに基づいて評価を行うためには、評価者向けの研修を実施することが必要です。評価者自身が評価の基準を理解しそれに沿った公平な評価を行うことで、従業員の公平感を保ち業務意欲やモチベーションを維持することができるようになります。
労働環境の整備と改善
2020年に入り労働環境を規制する法律が相次いで改正されています。具体的には、2020年の4月に始まった残業時間制限や、同年の6月に施行されたパワハラ防止法(正式には労働施策総合推進法)などが挙げられます。
また、リモートワーク(テレワーク)の普及に伴い、企業側は従業員の労働管理方法を見直す必要性が出てきています。
労働環境を整えることは、人間らしさを尊重し働きがいのある仕事という意味の「ディーセントワーク」という概念ともにもつながります。
取り組み方としては、まず現状の問題点を明確にしそれを解決するための策を立てることがポイントです。従業員の多様性を考慮に入れたアプローチが必要となります。労働者のバックグラウンドやニーズは様々なので、それぞれに合った働き方を提供できる環境を整備することが大切です。
労働時間の管理
労働法により、時間外労働(残業)の上限は基本的に月間45時間、年間360時間と定められています
特別な事情がある場合でも例えば繁忙期などにおいても、年間で720時間以上の時間外労働は認められておりません。
「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も更新され、勤務日毎の出勤・退勤時間をICカード等の客観的な方法で記録することが必要となっています。
労働時間の問題は、未払いの残業やメンタル疾患の発症など、深刻なトラブルへと発展する可能性があるため、時間外労働や休日出勤の承認制度の導入など、時間外労働の制限に努める取り組みが重要となります。
ハラスメント対策
社会問題となっているハラスメントは、パワーハラスメント(パワハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)など様々な形で存在します。職場でハラスメントが起きると、職場の雰囲気や人間関係を悪化させるだけでなく、被害者のパフォーマンスを低下させてしまい、結果的には組織全体の生産性まで低下させてしまします。
2022年4月からは、中小企業でもハラスメントに関する相談窓口の設置が義務付けられるました。そのため、人事部はこの問題に主導的に対応し、ハラスメントへの対策や対応方法をしっかりと構築し運用することが大切です。
ただし、ハラスメント対策は、防止研修を行うだけでは終わりません。安心して情報を提出でき、またそれが適切に処理される環境を作り社員の心理的安全性を確保することがハラスメント対策にとって非常に重要なポイントとなります。
まとめ
人事部の課題は、社員の定着や生産性に密接に関係しているため、企業全体の成長に直接的に影響を与えます。また、これらの課題への対策は経済情勢の変動や法令の改正を考慮に入れつつ、柔軟なアプローチで解決を図ることがポイントです。
従業員それぞれのライフスタイルや能力に合った働き方が浸透してきており、この傾向は、人事評価の観点からも明確に示されており、成果に基づいた評価を通じて生産性の向上が試みられています。
また、従業員が心身ともに健康な状態で働ける環境を整備することも、人事部門が重視すべき課題の一つです。
これらの課題に対応するため、一つの選択肢として採用マーケティングツールの活用が考えられます。これにより採用業務の効率化が図られ、人事部門が直面する多くの問題の解決につながります。