オワハラって何?人事・採用担当者が知るべき就活ハラスメント

2023/12/28

新卒採用の際に企業が注意すべき要素の一つに、「オワハラ」が存在します。「オワハラ」は「就職活動終われハラスメント」を略した言葉で、就職活動をしている学生との間で起こる問題や、企業の評判を傷つける可能性を秘めた行為を指します。

オワハラを意図的に実行する企業は無論、問題となる行為ですが、社会人口の減少や人材の流動性の高まりにより、採用の競争が激化している現状では、知らぬ間にオワハラを行ってしまうケースも見受けられます。近年は新卒生が就職活動の一環として口コミサイトで情報を収集することが一般的となっており、そこでのトラブルが悪評となってしまうと、企業の採用活動全体に影響を与えかねません。

そのため、新卒採用を成功させるためには、オワハラについての理解を深め、その予防策を講じることが必要です。本記事では、オワハラについての説明や具体的な例を挙げて解説します。また、オワハラがなぜ問題となるのか、そしてその防止策についても詳しく説明しますので、人事や採用担当者の皆さんにとって、参考になる情報を提供します。

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目次

オワハラとは何か

オワハラというのは、「就活オワレハラスメント」の省略形で、企業による就職活動の強制終了の行為を指します。具体的には、就職活動を行っている学生に対して、企業が内定または内々定を出した時点で、他の企業との面接をキャンセルするよう促す行為がこれに該当します。

この「ハラスメント」という言葉が示す通り、オワハラは許されない行為であり、その行為内容によっては法的に追及される可能性もあります。これは、就職活動を行っている学生が企業を訴える事例も存在するからです(詳細は後述)。

内閣府が行った調査によれば、2020年度に内々定を得た就職活動生のうち、約9.0%がオワハラを受けているとの結果が出ています。この9.0%には、オワハラを経験してそのまま入社した方々は含まれていないため、実際にはもっと多くの学生がこの問題に直面している可能性があります。
(出典:就活生の就活・採用活動開始時期等に関する調査|内閣府

また、人事や採用担当者が、無意識にオワハラとなる言動をとってしまうこともあります。企業側に就職活動を妨害する意図がなかったとしても、応募者の主観によりオワハラと受け取られてしまう可能性があるため、注意が必要です。

オワハラが起きる背景

「就職活動終われハラスメント」、一般的には「オワハラ」として知られるこの行為は、正当性を欠くものでありながら、何故これが発生してしまうのでしょうか?

主な理由として、採用担当者の不安と焦りが挙げられます。

「私たちの組織へと優秀な人材を引き寄せなければ……」
「確定された採用人数の目標を達成しなければ……」

このようなプレッシャーは、採用担当者全員が経験するものであり、これが不安や焦りを引き起こし、結果的にオワハラを誘発してしまいます。

この不安と焦りの背後には、少子高齢化の進行や就活開始時期の遅延といった、新卒採用市場の変化があります。
少子高齢化による労働人口の減少が、企業間の人材獲得競争をより激化させています。さらに、経団連は2015年から大企業の採用活動開始を遅らせ、面接開始の解禁を6月に設定しました。これにより、就活期間が短縮され、優秀な人材が大手企業に流入した場合、取り返しがつかなくなる恐れがあり、無意識のうちにオワハラに繋がる行為をしてしまうケースも存在します。

また、京都大学の研究グループが行った調査では、日本独特の雇用形態が強い企業ではオワハラが起こりやすいことが明らかにされました。それらの企業は、国内資本主義を基軸に、年功序列による昇進を行い、設立から長い年月が経過していることが特徴的です。

この研究では、日本的雇用を行っている企業は、労働者に対して長期間にわたる密接な関係を求める傾向が強く、これがオワハラを引き起こす一因となっている可能性が示唆されています。

【出典】 「就職活動終われハラスメントが日本的雇用に起因することを解明‐内資・年功序列・古い設立年の企業がオワハラをしやすい-」著:太郎丸博、水野幸輝(2020年) 

オワハラが許されない理由

企業がオワハラを実施してはならない理由として、法律の存在が挙げられます。オワハラは、希望者の心に深い傷を負わせるだけでなく、違法行為として重大な問題を引き起こす可能性があります。

以下では、オワハラを行ってはならない理由を、2つの視点から詳細に説明して参ります。

労働者には職業選択の自由があること

私たちの国の最高法規である日本国憲法の第22条第1項には、全ての人々が自由に職業を選択する権利を有すると明記されています。これは、就職活動を行う学生たちにも等しく適用され、彼らが求職先を自由に選ぶ権利を保証しているのです。そして、企業側が一方的に就職活動の終結を強制することは許されません。

ここで、「内定を受け入れてしまえば労働契約が成立し、企業側がその後の辞退や就職活動の継続を許さないのは理にかなっているのではないか?」という疑念を持つ方がいるかもしれません。しかし、その考えは誤りです。

確かに、内定とは求職者と企業間で労働契約を成立させるための手続きです。しかし、我が国の民法では、労働者が自由に契約を解除する権利が認められています(民法627条)。したがって、労働契約が成立した状態であっても、他社の選考を自由に受けることは、憲法が保障する範囲内での行為となります。

「内定を受け入れた後に他の企業へ行く行為は、マナーに反するのではないか?」という意見もあるかと思います。しかし、法的観点からは、その行為は許容されているのです。したがって、採用側がこの事実を理解し、認識を改める必要があります。

脅迫罪や強要罪になる可能性あり

「オワハラ」、つまり就職活動における不適切な行為は、その程度によっては法的な問題に直面する可能性があり、脅迫罪(刑法第222条)あるいは強要罪(刑法第223条)に該当するケースも存在します。

脅迫罪とは、具体的には、「生命、身体、自由、名誉、または財産」を危険に晒すような発言や行動を伴うものです。例を挙げると、「辞退するまで返さないぞ」といった発言は、相手の自由を制限し、その行動を強制するものであり、これが脅迫罪に該当する可能性があります。

一方で、強要罪に該当するケースとは、「生命、身体、自由、名誉、または財産」に対して、相手が本来行う義務のない行為を強制するものです。例えば、内定を辞退したいと申し出た際に、強制的に土下座をさせる行為は、強要罪に該当する可能性があります。

これら脅迫罪・強要罪と判断されれば、それは違法行為となり、重大な問題となります。その事実が周囲に知れ渡れば、企業は従業員や顧客、そして求職者など、組織の内外での信頼を大きく損なう危険性があります。

もちろん、これらの行為は絶対に行わないことが重要です。働く環境を守り、法的な問題を回避するために、倫理的な行動を心掛けることが必要です。

オワハラになる可能性が高い例

オワハラ、つまり働く者へのパワハラが不適切であることは周知の事実ですが、具体的にどのような行動がオワハラに該当するのか具体的なイメージを持つのが難しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのような方々のために、今回はオワハラに該当する可能性が高い行動の具体例を4つご紹介します。

ただし、オワハラは受け取り方により感じ方が異なりますので、これらの例はあくまで一部の可能性を示すものであり、全てがオワハラに該当するわけではありません。どの行動も個々の状況や文脈によりますので、これらを参考にしつつ、自身の状況を冷静に分析してみてください。

就活終了と内々定・内定を比較に出す

採用におけるパワハラの一種としてよく見られるのが、就職活動の終了や内々定・内定の取り扱いに関する問題です。具体的には、「就職活動が終わるまで待つから、我々から内定を出しますよ」というような言葉遣いや、「あなたが就職活動を完全に終えない限り、内々定は無効にするよ」という強制的な態度が挙げられます。

ここで注意したいのは、「私たちの会社こそがあなたの第一志望だと面接で聞いたから、他の企業での選考は全て辞退するべきだ」という考え方が存在するということです。しかしながら、このような考え方は必ずしも正しくありません。なぜなら、面接時に第一志望とされた会社が最終的な選択肢として残るかどうかは、就職活動が進行する中で変わる場合もあるからです。また、応募先全てに対して「あなたの会社が私の第一志望です!」と言っているケースも少なくありません。

したがって、あなたが求職者に対して入社を望む旨を伝える際は、内々定・内定を持ち出すのではなく、具体的にどの部分に魅力を感じているのかを伝えることが重要です。また、彼らがあなたの会社で必要とされている人材であるということを伝えることで、より前向きに入社を考えてもらえる可能性が高まります。

他社への選考を受けさせないようにする

就職活動中の学生を長時間拘束し、彼らの就職活動スケジュールを圧迫する行為も、いわゆるオワハラの一つとなります。具体的には、他社の面接が予定されている日に、内々定者を対象とした研修会を強制的に参加させるなどの事例が存在します。また、内定を辞退しにくい状況を作り出すために、企業が懇親会を行い、過剰に学生を引き留める行為も、オワハラの一部と考えられます。

しかし、研修会や懇親会自体を開催することは、それ自体が問題とはなりません。過度に心配する必要はありません。オワハラとみなされるのは、就職活動が最も活発な時期や、他社の面接が予定されている日などに、参加を義務付けたイベントを開催する場合が該当します。このような行為は、学生の自由な就職活動を阻害し、適切なキャリア選択を妨げる可能性があるため、注意が必要です。

強制的に内定承諾書や入社誓約書を提出させる

内定承諾書や入社誓約書を強制的に提出させる行為は、オファーハラスメント(通称オワハラ)の一部と見なされます。これらの書類自体には法的な拘束力は存在しないにも関わらず、署名や印鑑を押すことで、求職者が「もう内定を断ることは出来ない」と誤って思い込む可能性があります。このような行為はオワハラに該当する可能性があるため、注意が必要です。

内定に対する同意を書面で確認する際には、それはあくまでその時点での入社意志を確認するためのものであると、明確に説明することが重要です。しかし、企業としても採用のスケジュールがあるため、最終的な入社判断をいつまでにしてもらうかは、求職者と共に話し合い、相互の合意に基づいて決定することが望ましいです。

後日、教授に推薦状を出させようとする

自由応募という形式がとられているにも関わらず、後から大学のゼミナールや研究室の教授に推薦状を書いてもらおうとする行為は、オワハラ(就職活動ハラスメント)に該当します。教授からの推薦状が企業側に提出されてしまうと、就職活動を行っている学生は、内々定や内定を辞退しにくい状況に陥ることがあります。また、このような状況が生まれると、学生と教授の間の信頼関係に悪影響を及ぼす可能性もあるのです。

企業側が選考の際に教授からの推薦状を必要とするのであれば、それは必ず事前に応募者に告知すべきです。求人案内や応募の手引き等に、教授からの推薦状が必要であることを明記しておくことで、オワハラに当たるような事態は避けられます。

まとめ

オワハラは、「就職活動終われハラスメント」の省略形で、企業が学生に対して就職活動の終了を強制する行為を指します。その背景には、少子高齢化による労働力の不足や、新卒の就職活動のスケジュールが遅延していることに起因する不安感や焦りが存在しています。

日本国憲法によれば、全ての人々が自由に職業を選択する権利が保証されています。そのため、オワハラは許されない行為とされています。その行為の程度によっては、脅迫罪や強要罪に該当することもあり、重大な問題に発展する可能性もあります。

本記事では、オワハラとみなされる可能性がある行為として、「就活終了と内々定・内定の提示」、「長時間の監禁」等、4つの具体的なケースを取り上げています。これらの事例を参考に、自社におけるオワハラの防止に向けた取り組みを進めることをお勧めします。