皆さまの所属する企業では、「人事評価制度」は導入済みでしょうか?
「人事評価制度」は、社員のスキルアップや自己成長を促し、動機付けを向上させるために採用される制度で、初めて聞くと数多くの利点があるように聞こえるかもしれません。しかし、逆の視点から見ると、微妙な誤解や誤用により、社員のやる気を大きく奪う可能性も秘めている、一種の両刃の剣とも言える制度です。
そこで、この記事では、「人事評価制度の導入を考えている」または「人事評価制度の運用に悩んでいる」といった企業の皆さんへ、人事評価制度の目指すべき目標やその組み立て方、そして陥りやすい問題とその解決策について具体的に説明していきたいと思います。
目次
- 人事評価制度とは何か?
- 人事評価制度の目的
1.生産性と業績の向上
2.従業員の人材育成
3.人員配置の最適化 - 人事評価制度の課題について
- 人事評価制度の導入とその運用手順
ステップ1:評価基準の設定
ステップ2:評価担当者の設定
ステップ3:人事評価制度の周知
ステップ4:実施とフィードバック - 「評価者と被評価者間の認識ギャップを最小限にする」ための取り組み
- まとめ
人事評価制度とは何か?
人事評価制度とは、社員のスキルや貢献度が企業の目指す目標にどれだけ寄与しているかを判断し、その結果を定期的に社員の昇進や給与増加などの人事処遇に反映させるシステムのことを指します。しかし、この昇進や昇給といった人事処遇は、手段であり、目的そのものではないと理解することが重要です。人事評価制度の最終的な目標は、「企業と従業員が共に成長する環境を創造すること」にあります。
そのため、企業と社員が共に納得できる評価基準を設定し、それに基づいて評価を行なうことが理想的とされています。特に、現代では「リモートワーク」の導入が進むなど働き方が多様化しているため、働き方にとらわれない普遍的な評価基準の設定が求められています。
人事評価制度の目的
企業が人事評価制度を採用する理由は、その企業によって異なるかもしれませんが、一般的には次のような目的があります。
1つ目は、生産性や業績の向上です。人事評価制度は、従業員のパフォーマンスを評価し、その結果をもとに賃金や昇進を決定するため、従業員は自身のパフォーマンスを向上させようとします。これが、結果的に企業全体の生産性や業績を向上させる効果があります。
2つ目は、従業員の人材育成です。人事評価制度を通じて、従業員は自身の強みや弱み、成長の余地を理解することができます。これにより、自己成長の機会を提供し、企業全体の人材力を強化します。
3つ目は、人員配置の最適化です。人事評価制度を通じて、企業は従業員の能力や適性を理解し、適切な役職や業務に配置することができます。これにより、企業全体の効率と生産性を向上させます。
人事評価制度は、「企業が従業員から何を期待しているのか」を明確にする手段でもあります。そのため、従業員の育成や企業業績の向上に対して、重要な役割を果たす制度と言えます。
1.生産性と業績の向上
従業員の目標設定を人事評価制度を介して行うことで、そして評価者と協力して定期的にPDCAサイクルを遂行することで、企業全体の生産性や業績が向上する可能性が広がります。さらに、今まで個々の「成功した部分/改善が必要な部分」が主観的に評価されてきたのを、評価者との一対一の対話を通じて客観的な評価を得ることにより、従業員の意欲やモチベーションが上昇します。
2.従業員の人材育成
人事評価制度においては、「結果」だけを重視するのではなく、「行動」や「今後の展望」も評価の対象となります。これは、評価される側の従業員が自身の課題を自覚する機会を得られ、また、その課題にどのように取り組むべきかについての示唆を提供します。このような評価プロセスは、従業員が自己のスキルを向上させるための大切な一歩となります。
評価制度は、「何を達成したか」だけではなく、「どのような行動をとったのか」、「これからどう進めていくのか」といった過程や将来への視点も含めることが必要です。これにより、評価される従業員自身が自分の弱点や課題を自覚するきっかけを得ることができます。また、課題への対策を練るためのヒントを掴むことも可能になります。
このような評価の取り組みが実施されることで、従業員は自身のスキルを向上させるための具体的な手段を理解し、能力の向上につなげることができます。人事評価は単なる評価ではなく、従業員の成長とスキルアップを目指すための重要なツールとなるのです。
3.人員配置の最適化
企業内における人事評価制度のデータ収集は、個々の従業員のスキルや得意領域、またそれぞれの弱点等を明確に把握するための重要なステップです。これらのデータは、従業員がどのような業務に対して不満を感じやすいか、またはどの立場であれば最も効果的に働けるかといった、全体的な傾向を可視化する助けになります。
この情報を利用することで、企業は各従業員のスキルとニーズに最適に合わせた人員配置を行うことが可能になります。これにより、企業は効率的な運営を実現しつつ、従業員一人ひとりが自身の能力を最大限に発揮できる環境を提供することができるのです。
このような最適化された人員配置は、企業と従業員の双方にとって満足度の高い結果を生むことでしょう。企業は業績向上を、従業員は適性に合った仕事による満足感を得られるでしょう。したがって、人事評価制度のデータ収集と分析は、採用における重要な要素といえます。
人事評価制度の課題について
一つの完璧な人事評価制度は存在しないと言えるでしょう。全ての社員が納得するような評価制度を構築するのは、想像以上に難しい課題です。
アデコ株式会社が2018年に行った「人事評価制度」に関する意識調査によると、調査対象者1,532人のうち約62.3%の人々が「人事評価制度に何らかの不満を持っている」と回答しています。
本記事では、人事評価制度が導入された後に、企業が直面しやすい問題点について触れてみます。この記事が、より良い評価制度を構築するための参考になれば幸いです。
【問題点】
- 評価基準がはっきりしていない(結果に納得がいかない)
- 評価項目や目標設定が適切でない
- 評価者の価値観や業務経験により、評価に差が出ると感じられ、公平性に疑問が出る
- 評価結果のフィードバックや説明が十分でない、またはそのような制度が存在しない
- 評価結果が昇進や昇給に影響を与えない制度
- 期間中の状況変化(異動や外部環境の変化等)が考慮されない
【理解できること】
- 評価のプロセスに納得感を持てない人が多い
- 評価者と評価対象者の認識のずれが、納得感のずれを生んでいる
さらに、上記の調査で「(評価を行う評価者に対して)自分が適切に評価を行えていると思いますか」との質問に対して、「そう思う」と回答したのはわずか2割未満でした。これは、評価者が自信を持って評価を行っているとは言えない状況を示しています。
これらの結果から、「評価基準の不明瞭さ」「数値化の困難さ」等、評価者に対する評価制度の目的や手法の共有が十分に行われていない可能性が考えられます。このような認識のずれを放置すると、企業の方針と評価者、評価者と被評価者の間で認識のずれが大きくなり、結果として人事評価制度の導入が業績低下を引き起こす可能性もあります。
これらの問題を踏まえ、次のセクションでは詳細に人事評価制度の導入や運用手順について解説していきます。
人事評価制度の導入とその運用手順
この項目では、人事評価制度の導入から運用までの手順について詳しく説明します。ここで述べられている内容は、あくまで一般的な手法を基にしていますので、各組織の具体的な状況に応じて適宜カスタマイズしていただくことを想定しています。
前述の『人事評価制度の課題』のセクションにて指摘したように、人事評価制度における最も重要な点は「評価者と被評価者間の認識のズレを最小限に抑える」ことです。これに対する具体的な対策もまとめてありますので、併せて参照していただければ、より効果的な人事評価制度の運用が可能になることと思います。
ステップ1 評価基準の設定
採用において、まず最初に重要なのが評価基準の設定です。評価基準の設定とは、具体的にはどのようなポイントに注目して人材を評価するのかを明示的に定義することを指します。
評価基準は主に以下の3つのカテゴリーに分けて考えることができます。
1つ目 能力評価
これは、業務を遂行するために必要なスキルや知識が備わっているかどうかを評価するものです。例えば、特定のソフトウェアを使う能力や、専門的な知識を持っていることなどが該当します。
2つ目 業績評価
これは、設定された期間内にどれだけの成果を上げたか、目標に対する達成率や貢献度を見るものです。数字や結果に基づいた明確な評価が可能です。
3つ目 情意評価
これは、業務に対する意欲や協調性、一緒に働きやすさなど、人間性や態度を評価するものです。
これらの評価項目を設定する際には、企業のビジョンや目標、各部署の業務内容を考慮に入れ、より具体的に細分化していく作業が必要です。評価基準が業務と連動していないと、評価される側の不満や混乱を招く可能性がありますので、評価基準の設定は非常に重要であり、慎重に行うべきです。
ステップ2 評価担当者の設定
評価プロセスの次の段階では、評価担当者の設定が行われます。この役割は、通常、業務の内容に深く精通していて、評価対象者との関係が密接な部署責任者が任命されることがほとんどです。しかし、評価を実施する際には、「公平性」及び「客観性」が重要な考慮事項となるため、個人的な感情や偏見が評価に影響を与えないよう、注意を払うことが必要です。このように、評価担当者の選定は非常に重要なプロセスとなり、公正な評価結果を導き出すための基盤となります。
ステップ3 人事評価制度の周知
続いて、人事評価制度を全体に周知するという大切なフェーズに移ります。周知の方法と質が、組織メンバーの理解度や納得感に大きく影響を及ぼすため、適切な周知は必須と考えられます。単に社内文書を通じて一方的に制度を伝えるだけでなく、評価の具体的な基準や理由をしっかりと説明することが重要です。さらに、説明会や研修を設けて、従業員からの質問にも対応する時間を設けることで、評価制度についての疑問や誤解を無くすことができます。このようにして、双方向性を持った周知を行い、全員が評価制度を理解し、納得できる環境をつくり上げることが必要です。
ステップ4 実施とフィードバック
人事評価が終わった後、結果に対する明瞭なフィードバックの提供が非常に大切であると強調したいです。評価者がどれだけ公正且つ客観的に評価を行ったとしても、評価される側が自分自身の評価と評価者からの評価にギャップを感じ、その理由が説明されないと、評価者に対する信頼感が損なわれ、また働く意欲も低下してしまいます。
人事評価制度は、単に評価を行うことが目的ではなく、その評価結果をどのように次のステップに活かしていくかが大切なポイントとなってきます。したがって、フィードバックはこのプロセスにおいて最も重視すべき部分であり、その実施には十分な注意と努力を払うべきでしょう。
「評価者と被評価者間の認識ギャップを最小限にする」ための取り組
評価を行う際には、評価の目的と基準をはっきりと明示することが重要です。これにより、評価者間で評価の基準がブレることを防ぎます。評価者ごとの主観や偏りを排除し、公平性を保つためには、客観的な評価基準の設定が不可欠です。
また、評価結果を被評価者に伝える際には、具体的な事例やデータを基にした明確な根拠を示すことが必要です。これにより、被評価者は具体的な改善点を理解しやすくなり、評価者との認識のズレも生じにくくなります。
評価対象期間中に「異動」や「外部変化」などの状況変化があった場合、それらの要素も評価に反映させることが必要です。その期間の業務内容や状況を踏まえて、公正な評価を行うことが大切です。
さらに、可能であれば評価対象の業務に詳しい人物を評価者として選ぶことも効果的です。業務内容を深く理解した評価者であれば、より具体的かつ適切な評価が行え、評価者と被評価者間の認識のズレを最小限に抑えることが可能になります。
まとめ
あなたがどのように感じたかはわかりませんが、人事評価制度というのは、社員が成長するための基盤を築くための制度で、優秀な人とそうでない人を分けるものではないのです。同時に、これは企業ごとに多様で、扱いが難しい制度でもあります。良くも悪くも、社員の未来を大きく左右する重要なものでもあります。
私たちが今回お届けした記事が、これから人事評価制度を導入しようと考えている企業様や、すでに運用にあたり何か問題を感じている企業様にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。自社の状況に合わせた運用方法を見つけられることを願っています。